薬剤部長挨拶

岐阜大学医学部附属病院 教授・薬剤部長
伊藤 善規
[はじめに]
 岐阜大学病院(病床数614床)には47名の薬剤師が勤務しています。といっても、ほんの数年前までは30名前後であり、10年前は20数名でした。このような薬剤師数の増加は当院に限ったことでなく、全国の大学病院、自治体病院、民間病院でも同様です。
 その背景として、平成20年に勤務医不足問題が取り上げられ、国民が安心と希望を持てる医療を確保するためのビジョンにおける方策として、医師負担軽減を目的としたチーム医療の推進が展開されて以来、薬剤師の業務範囲が拡大したことが挙げられます。さらに、チーム医療推進策として平成24年度には全病棟への薬剤師専任配置の下での「病棟薬剤業務実施加算」が診療報酬として新設されたことも病院薬剤師の増員に大きく寄与しました。
 一方、プロポフォールや腹腔鏡下手術の保険適応外使用による死亡事故に端を発し、病院における医療安全体制と病院管理者のガバナンスの強化が求められ、平成28年に医療法施行規則が改定されました。この中で、医療安全管理部門への医師、看護師、薬剤師を専従配置すること、高難度医療の実施、未承認薬や禁忌薬の使用、保険適応外医薬品の使用に関しては院内で適否を決定する部門を設置することなどが求められ、医療安全確保における薬剤師の役割と責任は益々大きくなっています。

[今後の薬剤部の業務戦略]
 ところで、医学部における入学定員についてはこれまでは医師過剰を招かないように昭和57年と平成9年の2回にわたる閣議決定において定数削減が行われ、平成19年度までは7,625名で推移してきましたが、平成20年には定員増加の閣議決定がなされ、以後、毎年増加し続け、今年度(平成29年度)の定員数は9,420名に達し、平成19年度以前と比較して約1,800名の増加となり、医療環境は医師不足から医師充足に変わりつつあると思われます。
 さらに、国民医療費は年々高騰し続け、ついに40兆円を越し平成27年度は41.5兆円に達するといわれ、医療財政が窮迫する中で診療報酬プラス改定はほとんど期待できなくなり、今後は赤字を抱える病院が増えることが懸念されます。
 これらのことは、薬剤師にとっては風向きがこれまでとは異なる方向に変わることを示すものであり、このままでは今後薬剤師の増員は望むべくもなく、場合によっては人員削減の対象ともなりかねません。これからは、これまでに増員した薬剤師マンパワーを活用し、医療安全の確保、治療効果の向上、医療費削減、病院経営への貢献等の観点から、薬剤師は何をすべきか、その結果として医療にどの程度貢献できるのかを具体的数値をもって示すことが必要となり、一般国民をはじめ、病院経営層や行政担当者にも薬剤師の必要性を理解してもらわなければなりません。
 当院では、これまで病棟、外来がん化学療法室、感染対策部門等において、薬剤師が医療チームの一員として関わることによってどのような臨床効果(アウトカム)が得られたのかを数値評価してきました。
 例えば、院内感染対策チーム(ICT)には2008年から感染制御専門薬剤師がほぼ専従として関わり、抗菌薬注射剤が処方された入院患者全員を対象として、抗菌薬適正使用推進プログラムの一環として、全処方内容のチェックを行い、随時、処方医や感染専門医と協議しています。薬剤師がICTに関わることによって得られた臨床アウトカムとして、耐性菌(MRSA)出現率が関与前の48%から関与1年目41%、2年目40%、3年目37%と減少し、抗菌薬長期(2週間以上)使用例が5.2%から1年目4.1%、2年目2.8%、3年目2.4%と減少、平均入院期間は関与前20.4日から1年目19.3日、2年目17.5日、3年目17.6日と短縮したこと、また、入院期間短縮による医療費節減予測額は、1年目1.7億円、2年目4.1億円、3年目3.8億円であったこと、さらに、抗菌薬使用量の減少に基づく医薬品費削減額は、1年目4,500万円、2年目1,900万円、3年目3,450万であったこと等を明らかにしました(Niwaら.Int J Clin Pract 2012年)。さらに、薬剤師を含めたICTによる抗菌薬適正使用推進は、重症感染症患者の予後改善をもたらすことが明らかとなり、抗MRSA抗菌薬が投与された患者での死亡率の低下(ハザード比:0.296、95%信頼区間:0.144-0.611、Niwaら.J Clin Pharm Ther 2016年)や菌血症患者での死亡率低下(ハザード比:0.437、0.236-0.812、Niwaら.Biol Pharm Bull 2016年)に繋がることを報告しました。
 当院では、平成28年9月から病棟薬剤業務を開始しましたが、当初は耳鼻科での薬剤業務にフォーカスを絞り、どのような薬剤業務を行うことによってどのような臨床効果が得られるかを模索しました。当院耳鼻科では全入院患者の約4割が癌患者であり、抗がん剤治療や放射線治療がよく行われるために副作用が高頻度に発現していました。薬剤師は医師や看護師と共同で副作用の重症度評価(グレード0〜4)や副作用対策に関わっています。副作用と入院期間の関係について調べると、入院期間は副作用グレードの上昇とともに延長することが明らかとなりました(グレード0:9日、1:17日、2:28日、3〜4:47日)。また、中等度で処置が必要な副作用(グレード2)の発現率は38%(217名/570名)であり、薬剤師が副作用対策に関わることによって約7割の患者さんで症状が改善しました。この場合、症状が改善された患者さんの入院期間は26.3日、改善されなかった患者さんでは41.5日であり、症状改善により15.2日間入院期間が短縮されたことになります。この場合の医療費削減額を予測すると、年間約3,500万円となり、薬剤師を含めた取り組みが医療費節減および患者さんの負担軽減に貢献したと考えられます(Suzukiら.PLoS One 2014年、Suzukiら.Head & Neck 2016年)。
 今後、その他の病棟や医療チームにおいても、薬剤師の関与によって診療効率の向上、治療効果の改善、副作用の減少、入院期間の短縮、生存期間の延長、等の指標を駆使して薬剤師の貢献度を明らかにしなければなりません。
 一方、当院薬剤部では平成28年より病棟担当薬剤師は全て「看護必要度評価」にも関わるようになりました。特に、「A項目にある専門的な治療・処置」には抗がん剤や免疫抑制剤、鎮痛薬などリスクの高い薬剤の投与が行われていることが掲げられており、この部分を中心に薬剤師は毎日、患者さんのところに行って指導および記録を行い、看護師と連携しながら評価を行っています。

[薬剤部の研究スタンス]
 以上述べたように、当院薬剤部では薬剤業務に関わることによってどのような臨床アウトカムが得られるのかを常に考えながら薬剤業務を展開しており、得られた成果は論文として公表するといった姿勢で取り組んできました。つまり、『薬剤業務に基づく研究』を業務および研究の大黒柱としています。

(岐阜薬科大学との連携)
 岐阜大学キャンパス内には岐阜薬科大学の研究等が建てられており、薬剤部はこれまで岐阜薬科大学の多くの研究室と共同研究を行ってきました。具体的には、製剤学教室、実践社会学教室、薬理学教室との連携による「制吐薬としてのデキサメタゾン口腔内速溶解フィルム」や「口内炎治療薬としてのポラプレジンク含有トローチ製剤」の開発と臨床応用、実践社会学教室と薬物動態学研究室との連携による抗がん剤や抗菌薬の血中動態に基づく投与設計、などがあります。薬剤部内には機器分析室があり、そこには常時岐阜薬科大学の学生や教員がいて研究をしています。

[教育への関わり]
 薬剤部では薬学部5年生実務実習生を毎年30名受け入れており、その内15名は岐阜薬科大学から、残り15名は近隣の大学(名城大学、金城学院大学、愛知学院大学、鈴鹿医療大学、等)から受け入れてます。また、岐阜薬科大学から毎年数名ずつ研究生として薬剤部に受け入れ、薬科大学教員および病棟担当薬剤師の指導の下で研究に取り組んでいます。さらに、薬剤部員の一部は医学部非常勤講師となり、医学部チュトーリアル教育、医学生の研究指導、看護学科における講義に関わっています。

[おわりに]
 薬剤部では「薬物治療における有効性・安全性の確保に責任をもち、専門性を活かしたチーム医療に貢献する」ことを基本理念とし、この理念のもとに注力すべき具体策を基本方針として毎年掲げています。薬剤師の業務内容はここ数年で大きく拡大し変化しており、求められる内容も時々刻々と変わっています。しかし、これらはいずれも枝葉の問題であって、根幹は医薬品の適正使用による薬物治療での安全性確保と患者さんの生活の質(QOL)の改善です。根幹において薬剤師の貢献度を常に客観的評価し、その評価のもとに更なる業務展開をする必要があります。また、教育機関として医学生や薬学生のみならず薬剤師の教育にも責任を果たすべく日々に取り組んでいます。
(平成29年7月1日)